コロナウィルスが流行した時、世界保健機関(World Health Organization:通称WHO)は、様々なニュースで見るようになり、同時にこのロゴマークも見る回数が増えました。
しかし、このロゴマークをよく見ると、杖のようなものと蛇がいます。しかし、これを見ただけでどんな意味があるのか、WHOはこのロゴから何を伝えたいのか、わからないという方がほとんどだと思います。
結論を言うと、このロゴマークは旧約聖書のある出来事が由来になっていません笑
WHOの公式サイト(英語版)によると、
ギリシャ神話に出てくるアスクレピオスがで人間の命をあまりにも救うので・・・ということを語っている。そのアスクレピオスが持っていたのが「杖」だったようです。アスクレピオスの「杖」は治療と医学の象徴。だからWHOのロゴに「杖」が用いられたそうです。
しかし、公式にはその杖になぜ蛇がまかれているのか、アスクレピオスと蛇にはどんな関係があるのかは明記されていませんし、「治る」「生きる」「杖」「蛇」というキーワードを考えると聖書に出てくるある出来事の方がしっくりくる点が多くあります。
また、さまざまなサイトを見てみても、WHOのロゴが、ギリシャ神話に由来していると主張する人と、旧約聖書に由来していると主張する人に分かれています。
なので、今回は、WHOのロゴマークの本当の意味と由来を、聖書の話をメインで、わかりやすく説明したいと思います。
写真は公式ホームページからご覧ください。
そもそもWHOとは?
WHOは、World Health Organizationの頭文字をとった通称で、
“1948年4月7日に、すべての人々の健康を増進し、保護するため互いに他の国々と協力する目的”引用元 公益財団法人日本WHO協会
で設立しました。世界中の 人種や宗教、政治、経済的な条件によっても差別されることなく、平等に、最高水準の健康に恵まれることが基本的人権であることを理念としています。
主な仕事としては、世界中に流行している感染症やがん、高血圧、肥満など多くの疾患に対してのガイドラインを作っています。
現在、4月7日は「世界保健デー」と定められ、健康増進のための様々な活動が世界で行われています。
なぜ、聖書が由来だと勘違いされているのか。
ロゴマークの中心にある杖のようなものと、その回りに絡みついている蛇は旧約聖書のある有名な出来事に登場します。
旧約聖書の民数記21章4節から9節には、こんな出来事が記録されています。
彼らはホル山から、エドムの地を迂回しようとして、葦の海の道に旅立った。しかし、民は、途中で我慢ができなくなり、神とモーセに逆らって言った。
「なぜ、あなたがたはわれわれをエジプトから連れ上って、この荒野で死なせようとするのか。パンもなく、水もない。われわれはこのみじめな食べ物に飽き飽きしている」
そこで、主は民の中に燃える蛇を送られた。蛇は民にかみついたので、イスラエルのうちの多くの者が死んだ。民は、モーセのところに来て言った。
「私たちは、主とあなたを非難したりして、罪を犯しました。どうか、蛇を私たちから、取り去ってくださるよう主に祈ってください。」
モーセは民のために祈った。すると主は、モーセに言われた。
「あなたは、燃える蛇を作り、それを旗ざおの上に付けよ。かまれた者はみな、それを仰ぎ見れば生きる。」
モーセは、一つの青銅の蛇を作り、それを旗ざおの上に付けた。蛇が人をかんでも、その人が青銅の蛇を仰ぎ見ると生きた。
引用元:新改訳聖書2017
まとめると・・・
①イスラエルの民が神様とモーセに逆らった。
②神様が送った「燃える蛇」にかまれた人が次々と死んだ。
③民は反省し、モーセに対して、神様にお祈りするようにお願いした。
④神様は、「燃える蛇を作り、それを旗ざおに付けなさい。それを仰ぎ見れば、生きる」と言った。
⑤民たちが神様の言うとおりに行動したら、生きた。
というお話です。一つ一つ見てきましょう。
①イスラエルの民がモーセと神様に逆らった
この出来事が起こったのは「荒野」と聖書に書かれています。この「荒野」は地理的に幅広い、シナイ半島を含めてエジプトから現在のイスラエルまでの荒野一帯を指します。
イスラエルの民はエジプトで400年間奴隷でしたが、モーセによってエジプトから脱出します。その後、約束の地(カナン:現在のイスラエル)を目指して荒野を旅しますが、イスラエルの民が犯した罪が理由で、約束の地にたどり着くまで40年の期間を要します。
その生活の中でイスラエルの民たちは、「エジプトにいた方がよかった」「にんにくやニラをたべたい」「毎日同じ食べ物で飽きた」など様々な文句を神様とモーセと神様に言いますが、その一つがこの「青銅の蛇」の出来事です。
「われわれはこのみじめな食べ物に飽き飽きしている」という言葉がありますが、「このみじめな食べ物」とは、マナという食べ物を指します。これは、必要な分だけ、神様が天から与えてくれる食べ物で、それを毎日食べて生活していました。
余談ですが、この「マナ」という言葉は「いったいこれは何だろう」という意味があります。イスラエルの民は「いったいこれは何だろう」という食物をいつも食べていました。そして、その問いに対して「これは神様が与えてくださった食べ物だ」という思いを日々、思いめぐらしながら生活していました。
②神様が送った「燃える蛇」にかまれた人が次々と死んだ。
「燃える蛇」と表現されている言葉は、原語であるヘブル語では、「サーラーフ」で書かれており、「燃える」という意味です。パレスチナには、キングコブラより、何倍も恐ろしい毒蛇が何種類も生息しています。
例えば、赤い斑点をして炎のような模様をした蛇や、かまれると焼き付くような痛みに襲われる蛇、がいます。
そう言った蛇の事を当時のイスラエルの民が「燃える蛇」という言葉で表現したかは、わかりませんが可能性としてはあると思います。
何はともあれ、「燃える蛇」に噛まれたイスラエルの民は次々と死んでいきました。
③民は反省し、モーセに対して、神様にお祈りするようにお願いした。
エジプトを脱出したイスラエルの民は、40年間荒野で生活します。その中で、民は何度も神様とモーセに文句を言い、その都度、民は反省します。
・エジプトにいたときの方がよかった。なぜ、エジプトから連れ出したんだ。
・毎日同じご飯で飽きた。エジプトにいた時は、にんにくやニラがただで食べれたのに。
(ニンニク系が好きらしい。)
・水が足りない。水を飲ませてくれ。
こんな、文句が何度も起こりました。
その度に神様は、様々な形で、イスラエルの民に試練を与え、悔い改めに導くように行動しました。今回も同じ展開です。
④神様は、「燃える蛇を作り、それを旗ざおに付けなさい。それを仰ぎ見れば、生きる」と言った。
今日のテーマはここに凝縮されています。
神様は、イスラエルの民が悔い改めたとき、「燃える蛇を作り、それを旗ざおにつけなさい。それを仰ぎ見れば、生きる」といいました。
その言葉の造ったのが、下の写真のようなものだったのではないでしょうか。WHOのロゴに似ているような、似ていないような・・・
⑤民たちが神様の言うとおりに行動したら、生きた。
話は進み、イスラエルの民たちは命じられたとおり、モーセは「青銅の蛇」を作りました。そして、イスラエルの民の内、蛇に噛まれても、この「青銅の蛇」を仰ぎ見た人は、生きました。
そして、イスラエルの民は神様の事を改めて信じるようになっていきました。
WHOのロゴの本当の由来は・・・?
WHOの公式には、ギリシャ神話に出てくる治療の神、アスクレピオスの話を題材にしてロゴが作られたことが書かれています。
ギリシャ文化の歴史を辿るとBC15世紀には、自然崇拝(アニミズム)の文化があったと考えられています。しかし、時代の中で多神教の文化を形成されてから、実際に文章として残されるようになったのは、BC8世紀ごろです。
ギリシャ神話の最古の文学資料といわれるホメロス著の「イリアス」や「オドュッセイア」やヘーシオドスが書かれたとされる「神統記」は、BC8世紀に書かれたものです。
一方、歴史を旧約聖書のモーセの時代「青銅の蛇」の話は、紀元前約1400年~1200年頃の出来事だと言われており、ホメロス著の「イリアス」や「オドュッセイア」、ヘーシオドスが書いたとされる「新統記」よりも400年以上前の出来事だということがわかります。
このように歴史的な流れから考えると、WHOがモデルとしたギリシャ神話のアスクレピオスの話自体が、旧約聖書の「青銅の蛇」の物語の影響を受けていたのかもしれません。
実際のところは正直わかりませんが、可能性としてはあるのではないかと思います。
まとめ
WHOは公式のホームページで、ロゴの由来をギリシャ神話に登場する治療の神アスクレピオスから取ったと説明しています。
しかし、歴史を踏まえると、ギリシャ神話が文章として残された時代(紀元前8世紀)よれりも400年以上前に旧約聖書「青銅の蛇」の出来事がすでに記録として残っています。
また、紀元前10世紀前後の西洋や中東の情勢を考えると多文化の影響を受けながら、自らの文化を形成していく流れは多くありました。
それらを踏まえると、ギリシャ神話に登場するアスクレピオスの話自体が、旧約聖書の「青銅の蛇」の影響を多少なりとも受けていたかもしれません。