雑記ブログ

戦争経験者の渡部良三さんから学ぶ~③古年次兵の叫び~

渡部良三さんについて

 

渡部良三さんは、第二次世界大戦で中国の深県という場所に派遣され、最前線で戦争の悲惨さを目の当たりにした方です。中国に滞在中、度胸試しという名の「刺突訓練」を上司から命令されますが、50人いた部隊の中で唯一、その命令を拒否して、キリスト教徒としての信仰を守り抜きました。上司からの命令に背いたことで、同じ日本兵から何度もリンチされ、様々な部隊にたらい回しにされ、日本兵からは危険人物として、敗戦を迎えることになりました。終戦後、渡部さんは自身の戦争経験を様々なところで講演し、戦争責任の問題や、戦争の悲惨さを多くの人に伝えています。今回は、この渡部良三さんの経験されたことと、戦争に対する思いを、ある高校の講演で話されたことをもとにシリーズで話したいと思います。

 

刺突訓練のはじまりと古年次兵の叫び

国の学徒動員によって1944年3月に中国に派遣された渡部良三さんは、「中シナ派遣軍」第5航空軍の飛行部隊に配属され、駐屯地での生活が始まりました。兵舎での生活が1ヶ月ほどたったある日、朝食を食べていた渡部良三さん含め50人の隊員たちは、分隊長によって、あることを告げられました。

”教官殿のご配慮により、捕虜を殺さしてやる。有難く思え・・・”

という内容でした。

 

渡部良三さんは、その言葉を聞いて、聞いたことはあるけど、本当に殺人演習というものがあるんだ。ということを改めて認識し、そのとき僕はどうすればいいだろうか。

と思ったそうです。

当時の、上官の命令には、非常に強い強制力があり、”上官の命令は、天皇の命令だと思え”という意味を持っていました。

捕虜を殺すということを聞いた隊員たちの箸はぴたっと止まりました。使われていた箸は、木製ではなく、アルミニウムの箸だったそうです。乾いたアルミニウムの独特のにおいがして、普段食べているときは、アルミニウムの茶碗にぶつかる音が、常に聞こえていたそうです。しかし、この時だけは、そのアルミニウムの音はどこからも聞こえませんでした。それほど隊員たちは、衝撃を受けていました。

 

そして、いよいよ、午前中の教練が終わり、午後1時頃、外に集合しました。教官は、一人一人の顔を見て、

”怖いか?”と聞いて回りました。中には、”怖くありません”という人もいれば、”黙ったまま”という人もいました。

渡部良三さんは、というと、”黙ったまま”でした。

一人の捕虜が連れてこられました。若い男の子だったそうです。目隠しをされながら、連れてこられた少年は途中で殺されることに気づいたのか、中国語で大声で叫びました。渡辺良三さんには、中国語で何を叫んでいるかは、わからなかったけど、助けてほしいと叫んでいたと思ったそうです。その、男の子は、片手を縛られたときに叫んで、逃げることを試みました。

 

しかし、連れてきていた、古年次兵は、その男の子をつかみ、”バカヤロー”と叫びました。殺される相手を捕まえてバカヤローというその異様な光景に対して、渡部良三さんは以下のような言葉を語っています。

”この古年次兵もこんな戦地に5年6年もいて、そしていわば戦地ズレをしている兵隊でさえ、この自分の弟か弟よりももっと若いかもしれないそんな捕虜を殺す。罪ははっきりしません。・・・それを縛って抵抗できないようにして、心痛まないはずがありません。・・・このバカヤローというのは、僕にもどうしようもないんだよ、っていうその、日本の軍隊というものへの・・そのものを自分に言い聞かせる。私、そう思いました。”

また、この古年次兵の”バカヤロー”という言葉は、渡辺良三自身が何度もその古年次兵から言われたそうです。蹴とばされることや、怒鳴りつけられながら”バカヤロー”という言葉を叫ばれるたびに、渡部良三さんは、そこに、その人間の悲しみに満ちた思いを感じ取ったそうです。

 

ぼくは、その状況を想像した時、戦争の前線に派遣されて何年も経過したその兵は、心が痛みすぎて、自分でもどうしようもできないその気持ちや状況に諦めていたのかもしれない、と思いました。

もちろん、若い男の子の捕虜を拘束して、殺すために縛るという行為自体は、絶対にしてはいけないことです。しかし、一方この古年次兵もまた、戦争の被害者であり、数年の期間において、精神的な病と、真理が聞こえなくなった閉ざされた状態になってしまっていたのだなとぼくは思いました。

 

男の子を縛りなおしたその古年次兵は、どのよううな思いでいたのか、周囲ももちろんわかりませんし、もしかしたら、自分でもどんな感情で動いているのかわかっていないかもしれません。

 

どちらにせよ、分隊長の言葉と古年次兵が行った行為から、次々と「刺突訓練」が始まっていくことになりました。

 

ではまた・・・。

戦争経験者の渡部良三さんから学ぶ~④連れてこられる3人の捕虜~