ブックレビュー

『イースター・ブック 改革者の言葉と木版画で読むキリストの生涯』by junstott

マルティン・ルター著、ローランド・H・ベイントン編、中村妙子訳『イースター・ブック 改革者の言葉と木版画で読むキリストの生涯』新教出版社、1983年

感想

受難と復活に関するルターの説教を集め、編集した本である。

編者が書いている通り、16世紀前半の空気感を残すため論争的な文章もあり、聖餐論は特にルター、ツヴィングリ、カルヴァンなど宗教改革者の間でも違いがあるところである。
私自身ルターの聖餐論を全て受け入れる訳ではないが、この本を通しルター自身の言葉で「なぜこうした聖餐論に至ったか」の一端を聞くことができ、とても良かった(当然翻訳された言葉ではあるが)。

さて、この本を読むということは、1世紀に書かれた福音書から、16世紀前半の聴衆に向けて語られた説教が、20世紀に編集され、21世紀の今日読むということであるが、そこに時間の壁は感じなかった。
福音は福音であり、時代や場所が変わっても福音は変わらないことが感じられた。

私はカルヴァンの著作は多少読んだがルターについてはほとんど知らないくらいだが、この本を読むと

・時の権力に対し、聖書以外の何も持たない自分一人であろうと、偽りと戦い真理に立つ宗教改革者ルター
・「ヴィッテンベルクの説教師」を自認する牧会者ルター
・子どもの無邪気さに憧れる文学者ルター
・自らの老いを感じながら、復活の希望に生きる信仰者ルター

など、ルターという人の一端を知ることができた。
俗っぽい言い方だが、本を読むとはその著者と仲良くなることだと思っているので、そういう意味でルターと少し仲良くなれた気がする。

福音にもいま、同じことが起っています。おそらく今後も起るでしょう。むちは体を痛めます。けれども嘲笑は心をふかく傷つけるのです。(p.85, 86)

不正を忍ぶことと、沈黙を守ることは違います。忍ぶことはしましょう。でも黙ってはいますまいーわたしたちは真理の証人にならなくてはいけないのですから。もしも真理のために死ななければならないとしても、わたしたちは信仰の告白をなし、自分の口を持って嘘を非難しなければなりません。(p.87, 88)

神は、老齢がわたしたちに迫ることをおゆるしになりました。復活の信仰がわたしのうちに根を張り、わたし自身に起源をもつものは何一つないということを教え、復活がわたしのうちで働きはじめるなら、罪と悪しき良心はキリストとともに死ぬと、わたしは信じます。(p.122)

宗教改革のさなか、命の危機に晒され、嘲笑や中傷を浴びながら、受難の主を思い、復活の勝利の希望を抱いていたルターの説教に聞き、その信仰に学びたい。

by junstott