あらすじ
本書では、パウロがどのような生涯を送ったのかを当時の1世紀のギリシア・ローマ世界の時代背景と紐づけながら解説している。
パウロが生まれたトルコ南東部に位置するキリキアのタルソは、アレクサンドリアとアテネに並ぶ学術都市であった。またタルソは異邦人の土地でもあった。パウロは、そのような環境でディアスポラユダヤ人として生まれ、熱心なユダヤ教徒の家系の中で育った。
パウロには高い学識があり、ユダヤ人としての訓練を受けていた。このようなパウロの生い立ちを見ただけでも、福音の前進のため、異邦人伝道のために用いられるのに十分な素質があったことがわかる。
そのパウロは、回心後4度の宣教旅行を行い、多くの教会を生み出し、励ましていった。回心後のパウロは、以前のようにクリスチャンを迫害するためではなく、イエスをキリストと信じる信仰者を増やすために熱心さを用いた。
そして、パウロは自らの生涯を最期まで信仰によって走り抜いた。
本書は、そのような自分の与えられた召しを全うし、イエスに人生を捧げた使徒パウロの人生を追っていく。
感想
パウロの歩みの全体像を理解することのできる良書である。
また、本書を読み終わった後に、聖書の読み方が少し変わったことを感じた。
1つ目は、今までなんとなく読み飛ばしていた箇所に目が留まるようになった点だ。
例えば、パウロは、テトスが割礼を強制させそうになった際は、断固として反対したにも関わらず、テモテには割礼を施したという点だ。
今までは、テトスとテモテのそれぞれの背景を知らなかったために、この点に矛盾を感じていた。
しかし、本書を通して、テトスは異邦人であり、テモテはユダヤ人であること、そしてそれぞれの割礼に対しての姿勢が宣教に対して有効であることを知ることができた。
2つ目は、紀元1世紀のギリシア・ローマ世界の時代背景(歴史と文化)を頭に入れ、パウロがどのような環境の中で生まれ育ったかを心に留めると、なぜ彼が異邦人伝道者として召されたのかをより深く理解できるようになった点だ。
そして3つ目は、パウロの手紙だけではなかなか伝わらないパウロの諸教会に対しての想いや主張をより鮮明に捉えることができた点だ。
当時は、現代に比べて交通の便が整っていなかった。宣教し建て上げた教会に、直接赴くことは容易なことではなかった。パウロの手紙に書いてある諸教会への想いは、このような時代背景を知る時、よりパウロの抱いていた想いをうかがい知ることができた。
本書はパウロの手紙や使徒の働きを読むうえで非常によい助けとなった。
聖書の読み方がより当時の背景の概略を頭に入れながら読むことができるため、読む以前よりも立体的に理解できるようになった。
キリストに召され、福音の前進に大きく用いられた使徒パウロをより深く学びたいと思っている人には、勧めたい一冊だ。
パウロはその当時の世界で、伝道と教会建設に汗と涙を流し、キリストの御名のためにその生涯を完走しました。パウロは、一世紀の「ギリシア・ローマ世界に生きた使徒」あったのです。