ナホム書の時代背景
著者ナホムが活躍した時代は、BC630~BC620頃だと言われています。この時代は、すでに北イスラエルはBC722年にアッシリヤ帝国に滅ぼされており、南ユダ王国もこのアッシリヤ帝国によって攻撃を受け、大きな被害を受けていました。
ナホムがどの地域出身であるかは、よくわかっていません。
すでに滅ぼされた北イスラエルの地域のいずれかであるという説や、南ユダ王国のベイト・イエブリンという地域という説もありますが、確かな証拠はいまだありません。
ナホム書の主題は、次の一言でまとめられます。
アッシリヤ帝国の滅亡(ニネベ)の預言とその結果訪れるユダの回復
ナホム書では、北イスラエル王国を滅ぼし、南ユダに大きな被害を与えたアッシリヤ帝国に向けて、非常に重い裁きが下ることが預言されています。
実は、このナホムが預言したBC620年から約120年前に同じアッシリヤの首都にニネベに向けて神様の言葉を預言した預言者がいます。その預言者の名前は、ヨナです。
ヨナは、北イスラエル王国でヤロブアム2世(BC793~BC753)の治世に活躍した預言者です。
ヨナは、アッシリヤの滅びの預言をしたナホムとは対照的で、アッシリヤの首都ニネベの人たちに悔い改めの勧告をし、神様の裁きからアッシリヤの人々を守った預言者です。
主はねたんで、復讐する神 1章1~11節
主はねたんで、復讐する神。主は復讐し、憤る方。主はご自分に逆らう者に復讐し、敵に対して怒る方。ナホム書1章2節
3章しかないナホム書の冒頭にくるのは、「主はねたんで復讐する神」という言葉です。
かなりの厳しい言葉で「怖っ」と思ってしまう言葉ですが、ナホム書では、一貫して「主はねたんで復讐する神」の言葉が語られています。
この「ねたむ」という言葉ですが、これは神様の異常なまでの「排他的な愛」を示します。ナホムが裁きを語るニネベ(アッシリヤの首都)は、神が選ばれている北イスラエル王国の人々を滅ぼし、南ユダ王国の人々に甚大な被害を与えました。
そうした神様が特別選んで愛している人々が、アッシリヤ帝国によって滅ぼされ、虐げられていることに対して、燃えるような怒りを持っていることを表しています。
そして「復讐する神」という言葉は、神様が愛している人々を虐げる者たちに対する仇をかえすことを意味しています。
つまり、虐げている者たちを放っておかずに、報復されるということを表しています。
神様は、愛している人々が虐げられている状態に非常に燃える怒りを抱いており、虐げる人々に対しては、その怒りの報復がなされることを「主はねたんで復讐する神」という言葉から読み取ることができます。
「ねたむ神」⇒非常に排他的な愛を表現している言葉(虐げている者への怒り)
「復讐する神」⇒神様が愛している人を虐げている者に対する神様の報復の言葉
ユダへの希望のメッセージ1章12~2章2節
ナホム書の冒頭で、アッシリヤ帝国に向けての神の怒りが語られる一方で、ユダには、回復と希望の約束が語られます。
よこしまな者たちは、もう二度とあなたの間を通り過ぎることがない。彼らはみな、絶ち滅ぼされた。ナホム書1章15節
主がヤコブの威光を、イスラエルの威光のように回復されるからだ。ナホム書2章2節
つまり、アッシリヤ帝国の滅亡は、ユダにとっては希望であり、回復であることを表しています。
ニネベの包囲と滅亡 2章3節~3章19節
残りの箇所は全て、アッシリヤ帝国の首都ニネベの滅亡が細かい描写で書かれています。
当時のニネベは、難攻不落の都市でした。ニネベの市内の中心都市は、周囲13kmにもわたる巨大な城壁(高さ17,8m)に囲まれており、非常に堅固な城門がいくつもありました。
また、現在でもニネベがあった場所では多くの者が現在でも発掘されています。有名な発掘物として挙げられるのは、2万5千点以上の粘土板の文書や、ギルガメシュ叙事詩、バビロニヤ創造神話です。
しかし、そんな難攻不落で繁栄を極めたニネベは、聖書の記述通り、612年新バビロニヤ帝国によって滅ぼされることになります。
ニネベは、水が流れ出る池のようだ。「とまれ、とまれ」と言っても、向きを変え者はいない。銀を奪え。金も奪え。その財宝には、限りがない。あらゆる尊い品々があふれている。 ナホム書2章8,9節
難攻不落だったニネベの敗因の一つは、城内に流れる川だったようです。
ニネベの中心に流れているコスル川から、人々は水を得て生活をしていました。しかし、ニネベの敵は、ニネベに入っていく川を差し止め、ニネベ内への水路を経ち、水を確保できないようにしたそうです。
そして、最後には貯水していた場所が豪雨によって決壊したことと、差し止められていた川を敵によって一気に放流されたことが決定打になりました。
実は、この史実が聖書の中で預言されていたと思わせる言葉があります。
いくつもの川の水門が開かれ、宮殿が消え去る。 ナホム書2章6節
ナホム書の最後では、アッシリヤが修復不可能な状態になり、歴史から消し去られるという非常に厳しい預言で締めくくられています。
アッシリアの王よ。おまえたちの牧者たちは眠り、高貴な者たちはじっととどまっている。お前の民は、山々の上に散らされ、集める者は誰もいない。 ナホム書3章17節
まとめ
ナホム書の主題は、次の言葉でまとめられます。
アッシリヤ帝国の滅亡(ニネベ)の預言とその結果訪れるユダの回復
神様はこれらの事を起こす神様として書かれています。
それは、虐げる者を裁く神様である一面と、神様が愛している人々を守るという一面です。
この神様の特徴は、ナホム書だけでなく、聖書に一貫して語られています。聖書の神様は、どの時代であっても「ねたんで復讐する神」です。
ぜひ、ナホム書を通して、神様がどんな方であるかを確認してみてください。
参考文献
わかりやすい旧約聖書の思想と概説「下」 西満著 絶版
新改訳2017 聖書
ティンデル聖書注解 ナホム書、ハバクク書、ゼパニヤ書 ディヴィッド・W・ベーカー著