ヨエル書の時代背景
ヨエルに関しては父親の情報しか分からず、どのような生活をしたのか、どんな職業だったのかも一切ヨエル書には記述されていません。生きていたと推定されている年代もBC9世紀から500年間のどこか、です。
聖書辞典によるとヨエルがヨアシュ王(BC835~796)の時代に活躍したという説が有力ということでした。が、実際にどの時代に生きていたかは現在もわかっていません。
恐ろしすぎるイナゴの災害
ヨエル書のパワーワードは「イナゴ」です。
ヨエルが預言者として活動していた時代、恐るべきイナゴの大群がイスラエルに襲来するという大災害が起こりました。
イナゴの最大の特徴は、その圧倒的な増殖力です。ある事例では、地中海東沿岸地帯で発生したイナゴは2千3百平方キロメートルに対しておよそ24兆4200億匹にも及ぶ大群で、農作物を食い尽くしたという報告もありました。
まさに、びっしり隙間なくイナゴが土地を埋め尽くし、食物を食い尽くしたのです。
ヨエルの時代、実はイナゴだけでなく、バッタの大群にも襲われています。
噛みいなごが残したものは、いなごが食い、いなごが残した物は、バッタが食い、バッタが残した物は、その若虫が食った。ヨエル書1章4節
イナゴだけでなく、バッタの大群に襲われ、当時のイナゴの大群がこれほどの規模だったのかはわかりませんが、
イスラエルの人々は食糧難にも瀕し、目の前でどうすることもできない、イナゴとバッタの大群を見ながら、神の審判の日を思い起こすほどの衝撃を受けたのではないでしょうか。
人々への忠告「主の日」
ヨエルはこの自然災害を目の当たりにし、神様がこれからもたらそうとされるさらに大きな滅亡の前兆、予兆であると考えます。
ああ、その日よ。主の日は近い、全能者による破壊の日として、その日は来る。
ヨエル書1章15節
そしてヨエルは、イナゴの大群の恐ろしさと重ねて、いずれ来る外国の軍隊による襲撃による神の裁きを預言します。
まさにいずれ来る外国の軍隊は、いなごの大群のように数にあふれ、イナゴが多くの食料を食い尽くすほどの破壊力をもって、イスラエルに攻めてくる。
そしてヨエルは、悔い改めることを勧めます。
衣ではなく、あなたがたの子ことを引き裂け。あなた方の神、主に立ち返れ。主は情け深く、憐れみ深い。怒るのに遅く、恵み豊かで、わざわいを思い直してくださる。
ヨエル書2章23節
ねたむほどの愛の約束
イスラエルの人々は、ヨエルの言葉を通して祈りと悔い改めをするようになります。
主よ、あなたの民に憐れみをかけてください。あなたのゆずりの地を、国々のそしりの的、物笑いの種としないでください。諸国の民の間で、『彼らの神はどこにいるのか』と言わせておいてよいのでしょうか。 ヨエル書2章17節
そして、イスラエルの人々の心からの悔い改めと祈りを神様は聞き入れ、3つの約束をイスラエルの人々としました。
①いなごの災害で失った分の農作物を送ること。
②襲撃に来るはずだった、外国の軍隊を退けること。
③すべての人に神様の霊を注ぐこと。←point!
その後、わたしはすべての人にわたしの霊を注ぐ。あなたがたの息子や娘は預言し、老人は夢を見、青年は幻を見る。その日、わたしは。男奴隷にも女奴隷にも、わたしの霊を注ぐ。 ヨエル書2章28節
ヨエルを通して神様は、「その日」にすべての人に神様の霊を注ぐ、という衝撃的な約束をここでイスラエルの人々にしました。
旧約聖書の時代、この神様の霊が注がれるのは、神様に特別に任命された人に限られていました。しかし、「その日」には、全ての人に神様の霊が注がれます。
そして、この約束は、キリスト教の中では非常に重要なものとなっています。
ヨエル書と新約聖書
イエスの弟子であったペテロは、新約聖書「使徒の働き」の中でヨエル書の言葉を引用しています。
あなたがたが、思っているように酔っているのではありません。これは、預言者ヨエルによって語られたことです。「神は言われる。終わりの日にわたしはすべての人にわたしの霊を注ぐ。あなたがたの息子や娘は預言し、青年は幻を見、老人は夢を見る。その日わたしは、わたしのしもべにもはしためにも、わたしの霊を注ぐ。すると彼らは預言する。
使徒の働き 2章16~18節
ペテロがこの言葉を引用したのは、イエスを神様と信じた人々の上に聖霊が下り、人々が他国の言葉で話した始めたことで、周りの人がお酒に酔っているのではないかと疑ったためでした。
ヨエルを通して語られた神様の約束「わたしの霊をすべての人に注ぐ」は、この使徒の働きの2章の時に、果たされました。
そしてその後教会が多く形成されるようになりました。
ヨエル書はキリスト教にとって、ペンテコステの預言がなされる重要な書です。
諸外国への裁きの預言
最後に神様はヨエルを通して、イスラエルの周辺諸国への裁きの預言をします。
見よ。わたしは、おまえたちが彼らを売ったその場所から彼らを呼び戻して、お前たちへの報いをお前たちの頭上に返し、お前たちの息子、娘たちをユダの人々に売り渡す。
周辺諸国を裁くのは、神様の民であるイスラエルの人々を懲らしめ、迫害したことが理由であると語られています。
それとは、対照的にイスラエル、ユダの人々には祝福の約束をしています。
しかし、ユダは永遠に、エルサレムは代々のわたって人々の住む所となる。わたしは彼らの血の復讐をし、罰せずにおかない。主はシオンに住む。
このヨエル書を通して、西満先生は次のように語っています。
このようにヨエル書は、ユダとエルサレムの復興と祝福という民族的な色彩が濃く描かれていますが、それと二重写しで、全世界的な終末のさばきと救いが語られているのです。
引用文献 わかりやすい旧約聖書の思想と概説 西満著
ヨエル書は世界中の人にとって、全世界に向けての終末的な預言(さばきと救い)が書かれている重要な書であると言えます。
まとめ
ヨエル書で最も重要な言葉は「いなご」もそうですが、一番は「主の日」です。
「主の日」では、裁きと救いが同時に訪れます。神様に背を向けて生きている人々には裁きを、神様を信じて正義を守る人には救いがもたらされます。
そして、ヨエルはいなごの災害を通して訪れる、恐ろしい裁きの「日」とそれともなった悔い改めを勧めた預言者です。
ぜひ、このヨエル書に5回登場する「主の日」という言葉に注目しながら読んでみてください。
参考文献
わかりやすい旧約聖書の思想と概説「下」 西満著 絶版
新改訳2017 聖書
ティンデル聖書注解 ホセア書 デイヴィッド・アラン・ハバード著
ティンデル聖書注解 ヨエル書、アモス書 デイヴィッド・アラン・ハバード著